Legend of The Last Dragon −第一章(7)−

サナミィからレノア城まではそれなりの距離がある。彼らはかなりの間歩き続けたが、その先の道のりはまだまだ長そうで、双子は早くも挫折しそうになった。ふと、クリフの目の前に木の葉が舞い落ちる。彼は、いつの間にか自分がうつむいていた事にも気づいていなかった。顔をあげると、木々の合間を縫うように、風に煽られた多くの木の葉が舞っている。

――まるで、雪が降っているみたいだ。

足が、降り積もった柔らかな木の葉を踏んでいく。秋ならば乾燥したそれらは乾いた音をたてるのだが、今クリフたちが踏んでいく葉は「青葉の月」の名の通り、青々としたものが多い。ここらの樹木はおかしな性質があり、まだ青々としている若葉を次々と落としていく。その代わり、新しい葉がまたすぐに茂るのだ。降り積もった青葉のおかげで足元は柔らかく、非常に歩きやすかった。

歩きやすいとはいえ、この森の中を延々と歩いていては疲労もたまるというものだ。双子はこんな長い間歩き続けた事はなかったので、足が軋(きし)んでいた。彼らより歩き慣れていないはずの人と言えば……。エイル殿下は、シキの背にいた。足が痛いと何度も繰り返して訴えるエイルを、シキが背負っているのだ。エイルがいくら軽いとは言え、シキにもそろそろ疲れが見えてきていた。

彼らがくたびれ果てて腰を下ろした頃には、この大地に住む全ての人々を守ってくれる太陽神ハーディスは、既にその顔を地平線の向こうへ隠そうとしていた。周りには多くの木が立ち並び、先へ行くほど陰が濃くなっていく。ここまでの道のりのほとんどが森ではあったが、進んでゆく先はそれまでと比べて格段に木の本数も、その種類も違う。今までののどかな風景とは明らかに違う雰囲気が醸し出されていた。彼らは誰一人知らなかったが、ここは妖精の森と呼ばれる、異形の者たちが住む森なのである。

知らぬとはいえ、止まる訳にもいかない彼らはもう一度立ちあがると、うっそうとした森の中へと入っていく。火を焚くための枝を集めながら、あまり口を利かないまま、疲れた足を引きずっていった。

「も、だめ……疲れたぁ」

そう言ったのはクレオである。膝に手を当てて、首もがっくりとうなだれてしまっている。立ち止まってしまったクレオを振り向いて、シキが苦笑する。

「こんな程度で音を上げているようじゃ、まだまだだな」

「そうだそうだ」

シキに背負われたままエイルが同調する。それを、クレオが睨みつけた。

「そんな格好の人には言われたくないわよ。第一、私たちは荷物を余計に持ってんのよ? 誰のせいだと思ってるの、シキがエイルを持つので精一杯だからでしょ」

「持つとはどういう言い草だ。私は荷物ではないぞ」

「……十分、お荷物じゃない」

「無礼者め! 私を誰だと思っているんだ。私はいいんだ、王子だから歩かなくて! 馬車か輿(こし)を用意するべきなんだぞ」

「そんなもの、サナミィにある訳ないじゃない」

「だから我慢してやっているんだろうが」

「ふんだ!」

クリフは肩をすくめる。シキは苦笑が絶えない。エイルを大事そうに下ろすと、一旦ここらで休もうかと提案した。まだ日が沈みきってはいないのに、あたりはすっかり薄暗くなっている。クリフは少し不安になった。

「あの、ここで野宿するんですか?」

「仕方ないな。まあ小さいながら天幕がある」

「寝具はないのだろう?」

「そのくらい我慢しなさいよ」

「そんなの分かってる! 指図するなと言っているだろう」

一事が万事、この調子である。クリフとシキは顔を見合わせてため息をついたが、どうしようもない。荷物を下ろし、天幕を張り始める。それからシキは双子に、火を焚くための枝を集めてくれるように頼んだ。森の中では一晩中火を絶やしたくない、という意見に納得した双子は、早速森の奥へ枝を拾いながら入っていった。

時は過ぎ、二人は森の中ほどにある広場にいた。焚き火を前にして寄り添っている。枝を拾い歩いている内、いつしか戻る道を見失ってしまったのだ。クリフは下手に動き回らない方がいいと判断し、集めた枝に何とか火をつけて座り込んでいるのだった。二人とも眠気と疲労感に対して、まだ若干の粘りを見せている。何より、シキたちとはぐれてしまった不安のために眠れはしなかった。太陽神ハーディスは朝にならなければ、その顔を見せない。既に、暗闇が二人を包んでいた。しかし木々の生い茂った森の中で辛うじて、この広場の焚き火のそばだけに、昼の明かりがまだ存在している。

クレオが焚き火を枝でつつきながら、不安げにため息をつく。それは、まるであたりで息を潜めている暗闇にその音を聞かれでもしたら、たちまち二人のいる場所が無くなってしまう、とでもいうかのように、密やかに吐き出された。しかしすぐ横の双子の兄には聞こえたようだ。心配そうな瞳が、同じ色の不安げな瞳を見つめる。

「クレオ?」

「クリフ……。何か、怖いわ。誰かが見てるような気がして。ねえ、そんな気がしない?」

クリフはあたりを見回すが、そこにはただ夜がひっそりと佇んでいるだけである。薪がはぜる音以外は静寂が森を満たし、生き物の影は感じられない。兄は妹に向かって首を振る。クレオはまだ不安そうにしていたが、疲れのせいもあり、やがてクリフの肩に頭を乗せた。クリフは少しの間警戒してあたりに気を配っていたが、やがて妹と共に、静かに寝息をたて始めた。

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