Legend of The Last Dragon −第一章(8)−

――月が昇る。大きな、月神メルィーズの象徴である月は、この森の中に少しの光しか投げかけない。木々が枝をかけ、その丸い姿をまるでひび割れが入ってしまっているかのように見せているのだ。それでも、森の中の双子が肩を寄せあって眠るこの広場には、多少の明かりが差し込んでいた。あたりに音はなく……いや、何かの音がしている。木々のざわめきとも、人の笑い声ともつかぬ奇妙な物音が、いつの間にか、森全体に満ちていた。密やかなその音は風が森を吹き渡る音と共に少しずつ大きくなってきており、かすかではあるが、耳をよく澄ませば聞き取れる位にはなっていた。さわさわ……ざわざわ……ひそひそ……くすくす……。どうやら、話し声のようである。

「……ねえ、人がいるわ……」「くすくす……」「本当だ……珍しいね」「からかっちゃおうか……」「止めなさいよ……可哀想よ」「……さわさわ」「……そっくりね」「寝てるみたいだよ……」

木々の合間から、幾つかの影が見える。彼らこそがこの森に住む異形の者たちだった。クリフとクレオはまだ夢の中、彼らに気づいてはいない。異形の者たちは木々の間から姿を現し、徐々に広場に集まってきた。

彼らの多くは形こそ人間に似てはいたが、翼や角、尻尾などを持っていた。背丈や衣服などもかなりばらばらで、中には発光している者まで混じっている。最初に口を開いたのはその中の一人で、尖った耳を興味津々といったふうに動かしている。

「とりあえず、起こしてみようか」

その声の最後に、綺麗な旋律が重なった。ふわふわと浮いている小人とも動物ともつかぬ者が発した音のようだ。その旋律が終わると、頭の横に丸っこい角のある女の子が口を開く。

「そうね、アルの言う通り。このままじゃ、私たち何も出来ないし……。とにかく、起こしてみましょ」

クリフとクレオは目を覚ました後も、まだ夢の続きを見ているのかと驚いた。あんぐりと口を開け、異形の者たちを見つめる。目の前の人々が口々に話し始めた。それはあまりにも立て続けに話されたので、双子はその勢いに圧倒されて何もしゃべる事が出来ないまま、目をきょろきょろさせるばかりだ。いまだに自分たちの目の前にあるものが現実であるという事に対して、疑問を持つ事を禁じ得ない二人は、ただ彼らの話を聞くばかりだったが、やがて話の流れを理解したようだ。まだまだ話そうとする彼らの隙をついて口を挟む。

「じゃ、じゃあ今日はお祭りの日だって事ね?」

「満月を見に来たんだね?」

最初に口を開いた男の子は、ローレルと名乗った。どうやら彼が指導者的な存在のようだ。他の者を静めてから、頷いた。

「そう、今日はメルィーズが満月だから、お祭りなんだ。驚かせたよね、ごめんよ。人間なんてこの森に滅多に入ってこないから、こっちも驚いたけど」

「そうだ、俺たち迷ってるんだ。仲間とはぐれちゃって……」

「知ってる知ってる! ぼく、知ってるヨ!」

飛び出した一人の少年が、猫のようなひげを震わせ、甲高い声で言う。そして、クリフとクレオの回りを飛び跳ねながら、舌足らずな調子で説明しだした。

「あんね、ぼく見たよ、森の入り口に天幕張ってる、そうでしょ? あの、大きい人間と、小さい人間だよね」

「リーガル、彼らがどうしてるのか知ってる?」

「今ね、今は知らないの。でもさ、さっきはうろうろしてたヨ。小さい方、水色の髪の方は天幕に入ったの。だけど大きい方、黒髪の大きい人間はうろうろ」

うろうろ歩いている様子を、妙な素振りを交えて熱演して見せる。クレオは思わず口に手をあてて笑い出してしまった。ローレルが指を立てると、その先に小さな明かりが灯った。その明かりに向かってローレルが話しかける。

「じゃあレイラ、悪いけど彼らをここまで連れてきて」

「いいわ! ローレルのためなら〜」

歌うように言うと、小さな小さな妖精は翼をはためかせて飛んでいった。双子はほっと安心して、彼らに礼を言った。ローレルは耳をぴんと立てて、「お祭り、一緒にどう?」と彼らを誘った。

「喜んで!」

「うん!」

月は、彼らの頭上高くにその姿を現していた。その姿全部は見えなかったが、彼らは妖精の森の不思議な住人たちが持ち寄った食べ物や飲み物を口にし、月神メルィーズの地上での姿である月の、輝くような白銀の光を浴びて踊った。食事が終わるまでにはシキとエイルも合流し、それぞれはすっかり打ち解けていった。シキは目の前の異形の者たちに驚きの表情を隠せなかったが、エイルはすぐに馴染み、あっという間に彼らと仲良くなっていた。

夜明け近くまで祭りは続いた。住人たちは自分らが森を出られない事を告げ、非常に残念がって、またいつか寄ってくれるようにと、口々に頼んだ。クリフたちは楽しかった時間に別れを告げ、森に帰っていく友人たちを見送り、再び焚き火の前でしばしの睡眠を手に入れた。

……鳥のさえずりが聞こえる。クレオが目を開けると、ちょうど目を開けたクリフと目が合った。

「おはよう」

「ん、おはよ」

言ってから、何故か急に笑いがこみ上げる。二人は何がおかしいのか分からないまま、声を上げて笑った。その声でエイルも目を覚ましたようだ。広場には昨夜の跡などかけらもなく、森は普通の森と何ら変わりのない、朝が訪れた事を知らせる生命の活気に溢れている。シキはとっくに起きていて、荷物を詰め直していた。その脇に、果物などが山のように積んである。エイルが目を丸くして尋ねる。

「これはなに? どこから持ってきたんだ?」

「これは起きた時からありましたよ、殿下」

「じゃあきっとローレルたちからの贈り物ね!」

彼らはそれぞれに昨夜の事を思い出し、夢ではなかったのだろうかと言い合った。それから、レノアへ向かって再び道を辿り始める。レノア城までは、まだかなりの道程を残していたが、不思議と昨日までのようには疲れなかった。そして彼らは着々とレノアへ近づいていったのである。

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