Legend of The Last Dragon −第一章(9)−

太陽神ハーディスと月神メルィーズは交互にその姿を地上に現す。そうして十日ほどが経った頃、少年王子と騎士、そして世にも稀な双子はレノア城とその城下町付近にまで到達していた。大国レノアの王都はやはりレノアという名の街で、高い城壁が町全体を囲むように建てられていた。その周辺は平野で、穏やかな農村地帯が延々と広がっている。畑に植えられた作物は様々で、収穫できるようなものあればまだ青い葉を茂らせているものもあるので、畑はまるで色とりどりのつぎはぎを当てた布のように見えた。その大きく広げられた布の向こうに、高い城壁に囲まれた壮麗な王宮が見えている。細い尖塔がいくつも連なった王宮は、丘の上に造られているので、その大半が城壁の上に姿を現していた。その大きさがどれほどのものであるか、ここからではまだ分からないが、相当大きな城である事は確かである。

「我がレノア城……。父上……」

エイルが小さく呟く。隣を歩いているシキだけがそれを聞きつけ、唇を噛んでいる少年の肩にそっと手を乗せた。

「早く行きましょう! ね、早く!」

少し先で、クリフとクレオが手を振っている。シキがそれに振り返すと、双子は駆け出して行ってしまった。エイルは立ち止まり、シキを見上げて確認するように言った。

「あれは……我が城だな……?」

「ええ、エイル様がお住まいになる城、我が主の城、正当なるレノア王家の城です」

「……ん」

断固とした調子で繰り返すシキに、エイルは少し安心して息を吐いた。胸を張ってまた歩き出す。その心中を思うと、声には出さずともシキの胸は熱い想いでいっぱいになるのだった。もしあの時の事が現実で、反乱が起きているのだとしたら……もう随分と近くに見えるあの城は、エイルのものではないのだから。それを取り返すには、どれほどの人手、どれほどの時間が費やされるだろう。今の状態では不可能と言っても過言ではない。現実的に考えれば、レノアの兵士は今、その全てがエイルの敵だと言わねばなるまい。反乱軍を率いていたのは王弟コジュマール大公……。軍部を束ねる武官長でもある彼が、既に王位継承を執り行ったとすれば、レノア軍全体がエイルの敵である。レノアは、絶対的に王家の力が強い。反乱を起こしたとは言え、レノアの民はコジュマールに忠誠を尽くさねばならない。エイルは一夜にして王家を名乗る反逆者として手配され、処刑対象とされるだろう事は疑いようがないのだ。

幼い少年王子には、まだその実感がない。自分は正当なレノア王家の王子であり、レノアの民はいまだ自分と、その王家に対して忠誠を誓っていると思っているのだ。その期待が裏切られた時、少年がどんな顔をするのか、そしてその後はどうするのか。考えただけでもシキは息苦しくなる。自分たちを転移させてくれた老司祭、ジルクの言葉がふと蘇った。

『とにかくエイル様をお守り下さい。シキ殿なら安心ですからな』

シキは心の中で呟く。

――俺は、何があろうとエイル様の味方です。……まだ存在しているかすら定かではない「レノア王家」にではなく……エイル様ご自身に、俺の忠誠を捧げます。

自分が守らなくて、誰がこの少年を守れると言うのだろう。自分の目の前を歩いている幼き少年、まだ何も知らぬ、「現実」というものを感じた事すらない少年を……。

そうこうしている内に、レノアの城下町は随分と近くなってきた。遠かった頃はそれほどだとも思っていなかった城壁は、今や目の前にそびえ立っているように感じられるほどだ。双子はその大きさに驚嘆の声を漏らしている。

王都レノアは南北に長い町だった。北側がレノア城、南側が城下町という具合になっている。町の一番南に開かれた城門が、町の南門として使われていた。サナミィから来ると、レノアの北東あたりに到着する事になる。クリフたちは城壁を右手に見ながら、南へ回らなければならなかった。

南門からは大きく太い街道が南へと続いている。春の市が立つこの季節、街道には多くの人が溢れていた。南方からやってきた旅人も多くいる。あちこちで色々な地方の言葉が飛び交っていた。街道の脇には露店も作られ、気の早い商人が商売に精を出している。今、この街道には種々雑多な人々が入り乱れていた。その様子を眺めながら、シキはいまいち合点がいかない様子である。

「いくら市が立つ時期とはいえ、このような場所での露天商など、許されるはずがないのだが。それに……」

独り言のように呟くシキの目線の先には、レノアの南門があった。そこでは兵士が数人立ちはだかり、入ろうとする者と問答しているようだ。門番の様子からすると、誰も門を通すまいとしている。普段であれば大勢の旅人や商人が出入りしているはずなのに、人々が街道でうろうろしている理由はそこにあるようだった。人々は皆一様に、何かを待って街道やその付近に集まっているのである。

「レノアの城下に入るために通行証などいらぬはず。それに天幕を張っている者がいるという事は、もう何日も門は開けられていないということか? ……やはり何かがおかしいな。しかしこれでは反乱が起きているのかどうか、はっきりとは……」

考え込むシキの周りでは、エイルと双子が目を丸くしていた。エイルにしてみれば、城から出た事など数えるほどで、それも全て輿の中から覗ける、狭い範囲しか見た事がないのである。双子はと言えば、ただただ純粋に、これほど大勢の人間を見た事がないので唖然としているのだった。

「サナミィの収穫祭よりすごい人……」

「う、うん。これでもまだ、城下に入ってもいないんだよ、すごいなあ」

三人ははぐれないようにとシキのそばを離れはしなかったが、あたりを物珍しそうに眺めてはきょろきょろし通しである。

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