Legend of The Last Dragon −第一章(11)−

二人の兵士たちは、意気揚々と南門に到達した。すぐに、先導二人によって広く開けられた道を、大勢の騎士たちが埋めていく。まずは馬の一団が姿を現した。その一番先頭を、王家の白い旗と騎士団の青の旗、そして緑旗隊の緑の旗を掲げた三人の兵士が歩いてくる。すぐ後の二頭が、騎士団の中で最も立派な馬だった。毛艶のいい葦毛と、これまた美しい栗毛が飾り立てられている。

背の高い葦毛に乗っているのは、深い緑の鎧を身につけ、真っ直ぐな姿勢で前を向いている体格のいい男で、見たところ四十に近いだろうという騎士だ。栗毛の手綱を握るのは、黒い鎧の青年でやはり背筋をぴんと伸ばしている。こちらの騎士はずっと若いが、それでも三十前後だろうか。二人とも面をつけていなかったので、その表情がよく見えた。緑の甲冑の男は厳しい顔つきで太い眉をぴくりとも動かさず、まるで人形のような表情だが、栗毛を操る黒い甲冑の男は優しげな笑みを浮かべている。シキはその様子をまんじりともせず眺めていたが、まわりの人々が言い交わす言葉に己の耳を疑った。

「ほら見てごらん、あれが緑旗隊の隊長と副隊長だよ」

「ああ、姫を迎えに行っていたんだろ。サニエール隊長と……」

「副隊長のフォード様!」

「綺麗なお顔立ちだねえ、あの人は……やっぱり貴族様は違うよねぇ」

「なんたって気品があるもの。サニエール隊長は、とてつもなくお強いんでしょ? 騎士団の中でも一番だって言うじゃないさ」

「お父様は大戦の時の英雄でいらしたしねぇ」

「あら、フォード様だってすごいわよ。剣もお上手だし、頭もよいので有名じゃない」

「いやあ、あの人は怒らせたくないね……、国中の女を敵に回すのと同じだもんなぁ」

「フォード副隊長がご結婚されるとなると大変だろうね」

「いやっ、フォード様がご結婚なんて信じられないわぁ」

人々の下賎な噂はひそひそと切れる事もなく続いていたが、シキの心中はそれどころではなかった。レノア王国騎士団、緑旗隊長の副隊長と呼ばれる人間が目の前を通っている、それ自身が、まさに信じられない事実だった。相手は甲冑を身につけ、人々の羨望の眼差しの中、馬を歩かせていく。一方の自分は、平民と間違えられるような服装で、人々に混じってそれを眺める事しか出来ないのだ。もしここで自分が緑旗隊の副隊長だと名乗り出れば、不届き者と罰せられる事は明白である。

それに加え、人々のやり取りから確かになったいくつかの事実も、信じられない事ばかりだった。……やはりこれでは、サナミィの長老が言っていた通りではないのか。態度の悪すぎる兵士も、緑旗隊とも思われない。『姫を迎えに行っていた』などと言っているが、エイクス王に娘はいらっしゃらない。……それに、サニエールにフォードなど、騎士団の中でも聞いた事のない名だ。まして、自分以外の『緑旗隊副隊長』が存在するなど……! それがシキにとって、一番の衝撃だった。「まさか」「そんなはずが」といった言葉ばかりがシキの頭に溢れかえっていた。

混乱し、頭の中を整理しきれないシキの目の前を、緑旗隊の鎧をつけた兵士の乗る馬が何頭も通りすぎていく。その後には、美しい馬車が数台、そしてまた騎乗兵の一団が続いていた。一番最後は大勢の歩兵の列である。彼らはみな厳粛な面持ちで、列を崩さぬまま静かに行進していく。シキは彼らをただ見つめている事しか出来なかった。

そして最後の一人が城門へと吸いこまれていき、南門はすぐに閉められ、人々はため息とともにそれを見守った。シキはようやく我に返ると、あたりの人にいくつかものを尋ねてから、残してきたエイルと双子を案じて駆け戻った。

「あ、帰ってきた!」

「シキ!」

小走りで帰ってくるシキにむかってエイルが駆け出す。それを抱きとめるようにしてシキが立ち止まり、そこへクリフとクレオが歩いてきた。

「すごかったですね、なんだったんですか、あの集団は」

「びっくりしちゃった」

クリフとクレオは無邪気そうに尋ねる。シキはなんと答えたらいいか迷ってしまった。エイルは、事の意味を理解しているようだ。

「シキ、緑旗隊というのはどういう事だ。あれは、あれは王家の馬車か」

「……レノアの姫が、お戻りになったそうでございます」

「姫ぇ?」

その答えにエイルは、訳が分からないといったように叫ぶ。それを抑えてシキは続けた。

「ここでは目立ちすぎます、まずは街道から離れて……」

「あ、はい。……実は僕らも思ってたんです」

「あの、双子ってすごい目立つみたい。みんな私たちの顔を見ていくんです」

見れば、クレオは先ほどからずっとフードを目深に下ろしている。なるほど、同じ顔の子供が二人いれば注目されるのは道理、ただでさえ目立ちたくないのにこれでは……。シキが、街道から一旦外れて話をしようと申し出た。

「先ほどの一団は……王国騎士団緑旗隊だった」

シキが冷静に話し始める。自分の感情を抑え、淡々と話していく。

「どうやら国王……グリッド様には姫が一人いて、異国へ親善大使としてお出かけだったらしい。それが、ご訪問の期間が終わってご帰国になったのだとか。緑旗隊は、その護衛だ。隊長はサニエール、副隊長……が、フォードという名で」

「緑旗隊の副隊長はシキ=ヴェルドーレという名だ」

エイルが憤慨して胸を反らし、きっぱりとした口調で言ってのけた。双子はお互いに困ったような顔を見合わせている。シキはほんの少し、淋しげに微笑んだ。

「殿下……どうやらここは我々が知っているレノアとは違います。人々に尋ね聞いたところ、王の名はグリッド=リヨール=シュレイス=レノア、第三十七代レノア王でございます。残念ながら今が、レノア暦七八四年だというのは、誰に聞いても同じ答えで……」

「今年は四三八年だってば」

「エイル様は、シキが嘘をついていると、そうお思いですか」

「……」

広がる沈黙がその場の気まずい雰囲気を演出し、クリフとクレオはその沈黙に耐えられなくなってしまった。比較的明るい雰囲気を出そうと務めながら、交互に言い出す。

「ってことはやっぱり、時間がずれていたんですね」

「すごいね、三百年以上前の人に会えるなんて」

「そうだよね、すごいや。でもなんでだったんだろう」

「その、ジルクという司祭が間違えちゃったのかな」

「そうかも知れぬ。あの時、ジルク殿は焦っておられた」

「いや、違う」

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