LL index≫第一章(一気読み) (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12)
二人の兵士たちは、意気揚々と南門に到達した。すぐに、先導二人によって広く開けられた道を、大勢の騎士たちが埋めていく。まずは馬の一団が姿を現した。その一番先頭を、王家の白い旗と騎士団の青の旗、そして緑旗隊の緑の旗を掲げた三人の兵士が歩いてくる。すぐ後の二頭が、騎士団の中で最も立派な馬だった。毛艶のいい葦毛と、これまた美しい栗毛が飾り立てられている。
背の高い葦毛に乗っているのは、深い緑の鎧を身につけ、真っ直ぐな姿勢で前を向いている体格のいい男で、見たところ四十に近いだろうという騎士だ。栗毛の手綱を握るのは、黒い鎧の青年でやはり背筋をぴんと伸ばしている。こちらの騎士はずっと若いが、それでも三十前後だろうか。二人とも面をつけていなかったので、その表情がよく見えた。緑の甲冑の男は厳しい顔つきで太い眉をぴくりとも動かさず、まるで人形のような表情だが、栗毛を操る黒い甲冑の男は優しげな笑みを浮かべている。シキはその様子をまんじりともせず眺めていたが、まわりの人々が言い交わす言葉に己の耳を疑った。
「ほら見てごらん、あれが緑旗隊の隊長と副隊長だよ」
「ああ、姫を迎えに行っていたんだろ。サニエール隊長と……」
「副隊長のフォード様!」
「綺麗なお顔立ちだねえ、あの人は……やっぱり貴族様は違うよねぇ」
「なんたって気品があるもの。サニエール隊長は、とてつもなくお強いんでしょ? 騎士団の中でも一番だって言うじゃないさ」
「お父様は大戦の時の英雄でいらしたしねぇ」
「あら、フォード様だってすごいわよ。剣もお上手だし、頭もよいので有名じゃない」
「いやあ、あの人は怒らせたくないね……、国中の女を敵に回すのと同じだもんなぁ」
「フォード副隊長がご結婚されるとなると大変だろうね」
「いやっ、フォード様がご結婚なんて信じられないわぁ」
人々の下賎な噂はひそひそと切れる事もなく続いていたが、シキの心中はそれどころではなかった。レノア王国騎士団、緑旗隊長の副隊長と呼ばれる人間が目の前を通っている、それ自身が、まさに信じられない事実だった。相手は甲冑を身につけ、人々の羨望の眼差しの中、馬を歩かせていく。一方の自分は、平民と間違えられるような服装で、人々に混じってそれを眺める事しか出来ないのだ。もしここで自分が緑旗隊の副隊長だと名乗り出れば、不届き者と罰せられる事は明白である。
それに加え、人々のやり取りから確かになったいくつかの事実も、信じられない事ばかりだった。……やはりこれでは、サナミィの長老が言っていた通りではないのか。態度の悪すぎる兵士も、緑旗隊とも思われない。『姫を迎えに行っていた』などと言っているが、エイクス王に娘はいらっしゃらない。……それに、サニエールにフォードなど、騎士団の中でも聞いた事のない名だ。まして、自分以外の『緑旗隊副隊長』が存在するなど……! それがシキにとって、一番の衝撃だった。「まさか」「そんなはずが」といった言葉ばかりがシキの頭に溢れかえっていた。
混乱し、頭の中を整理しきれないシキの目の前を、緑旗隊の鎧をつけた兵士の乗る馬が何頭も通りすぎていく。その後には、美しい馬車が数台、そしてまた騎乗兵の一団が続いていた。一番最後は大勢の歩兵の列である。彼らはみな厳粛な面持ちで、列を崩さぬまま静かに行進していく。シキは彼らをただ見つめている事しか出来なかった。
そして最後の一人が城門へと吸いこまれていき、南門はすぐに閉められ、人々はため息とともにそれを見守った。シキはようやく我に返ると、あたりの人にいくつかものを尋ねてから、残してきたエイルと双子を案じて駆け戻った。
「あ、帰ってきた!」
「シキ!」
小走りで帰ってくるシキにむかってエイルが駆け出す。それを抱きとめるようにしてシキが立ち止まり、そこへクリフとクレオが歩いてきた。
「すごかったですね、なんだったんですか、あの集団は」
「びっくりしちゃった」
クリフとクレオは無邪気そうに尋ねる。シキはなんと答えたらいいか迷ってしまった。エイルは、事の意味を理解しているようだ。
「シキ、緑旗隊というのはどういう事だ。あれは、あれは王家の馬車か」
「……レノアの姫が、お戻りになったそうでございます」
「姫ぇ?」
その答えにエイルは、訳が分からないといったように叫ぶ。それを抑えてシキは続けた。
「ここでは目立ちすぎます、まずは街道から離れて……」
「あ、はい。……実は僕らも思ってたんです」
「あの、双子ってすごい目立つみたい。みんな私たちの顔を見ていくんです」
見れば、クレオは先ほどからずっとフードを目深に下ろしている。なるほど、同じ顔の子供が二人いれば注目されるのは道理、ただでさえ目立ちたくないのにこれでは……。シキが、街道から一旦外れて話をしようと申し出た。
「先ほどの一団は……王国騎士団緑旗隊だった」
シキが冷静に話し始める。自分の感情を抑え、淡々と話していく。
「どうやら国王……グリッド様には姫が一人いて、異国へ親善大使としてお出かけだったらしい。それが、ご訪問の期間が終わってご帰国になったのだとか。緑旗隊は、その護衛だ。隊長はサニエール、副隊長……が、フォードという名で」
「緑旗隊の副隊長はシキ=ヴェルドーレという名だ」
エイルが憤慨して胸を反らし、きっぱりとした口調で言ってのけた。双子はお互いに困ったような顔を見合わせている。シキはほんの少し、淋しげに微笑んだ。
「殿下……どうやらここは我々が知っているレノアとは違います。人々に尋ね聞いたところ、王の名はグリッド=リヨール=シュレイス=レノア、第三十七代レノア王でございます。残念ながら今が、レノア暦七八四年だというのは、誰に聞いても同じ答えで……」
「今年は四三八年だってば」
「エイル様は、シキが嘘をついていると、そうお思いですか」
「……」
広がる沈黙がその場の気まずい雰囲気を演出し、クリフとクレオはその沈黙に耐えられなくなってしまった。比較的明るい雰囲気を出そうと務めながら、交互に言い出す。
「ってことはやっぱり、時間がずれていたんですね」
「すごいね、三百年以上前の人に会えるなんて」
「そうだよね、すごいや。でもなんでだったんだろう」
「その、ジルクという司祭が間違えちゃったのかな」
「そうかも知れぬ。あの時、ジルク殿は焦っておられた」
「いや、違う」
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