Legend of The Last Dragon −第二章(11)−

その様子を見て取った青年剣士は、いち早く牢の中に飛び込んでいた。一番奥では、ゴダルとバルタゴスが双子の入れられた牢に合う鍵がないかと、鍵束の鍵を片っ端から扉に差し込んでいる。しかし彼らは、まだ目的の鍵を見つけられずにいたようだ。青年の姿を認めると、ゴダルはバルタゴスに向かって喚きたてた。あまりに慌てたので、口の端から唾が飛んでいる。

「あ、あいつを止めておけ!」

誰かが入ってきたということは、もう外に傭兵が残っていないということである。これだけ騒いでいたのだから、イルバ兵も来ているだろう。双子は諦め、自分だけは何とかその場を逃げだそう。そういう姑息な考えである。ゴダルは鍵束を投げ捨て、バルタゴスを盾にして向きを変えると、牢の出口へ向かって駆け出した。

ちっ、と音を立てて唾を吐き捨てると、バルタゴスは剣を構えた。しかし彼の持つ剣は大きく、低い天井の牢で振り回すようなものではない。すぐにそれを理解したバルタゴスは大剣を投げ捨て、短剣を取り出した。素早く距離をとり、それを続けざまに投げる。しかしいくつかは交わされ、いくつかは剣で叩き落されてしまった。ならば、とバルタゴスは青年に飛び掛かかったが、相手の持つ長剣がその邪魔をしていた。立ちすくむバルタゴスに青年が駆け寄り、剣を振り上げる。両腕を交差させ、なんとか防ごうとした。が、剣が一瞬の内に向きを変えて、その喉元に突きつけられる。バルタゴスは歯を食いしばって青年を睨みつけた。

「俺の負けだ、殺すがいい」

「お前を殺す意味はない」

そう言いながら青年はあっさりと剣を引く。バルタゴスの目が大きく見開かれた。

「馬鹿な事を言うな! 俺は負けたではないか!」

「無意味には切らぬ」

青年は一歩下がった。右手で剣を構えたまま、左手で外を指し示す。バルタゴスは余りの悔しさに歯噛みしながら外へと駆け出した。と、奥の牢屋の中から二つの声が同時に響く。

「シキ様!」「シキ様!」

ふう、と息をついて剣をぬぐい、鞘に収めると、シキは牢の鍵を取り出した。鍵を開けながら、牢の中で泣きそうな双子を安心させるように言い聞かせる。

「彼らには開けられなかったんだ。ここの鍵は少年が届けてくれたからな。ゴダルがお前たちを連れ出そうとしている事を教えに来てくれたのも彼だったわけだが」

クリフとクレオは感激に体を震わせ、牢が開くと、頼もしい助けに思わずすがりついた。

「私、もう駄目だって……」

「このまま会えないかと思ってました」

「本当にお前たちだったんだな。まあ他に双子がいるとも思っていなかったが……。しかしどうしてまた……」

彼がそう言いかけた時、イルバ兵たちが牢に入ってきた。手にしたいくつもの光が牢屋の中に満たされ、子供たちとシキの目を一瞬眩(くら)ませる。衛兵はシキの足元に転がる鍵束を拾い上げ、次々と牢の扉を開けていった。長い間閉じ込められていた奴隷の子供たちは、嬉しさのあまり走り出ていく。彼らは、牢の外に用意されたダルケスの馬車に乗り、ダルケスの屋敷へ行くのである。イルバ領主の館が素晴らしいものである事は周知の事実だったし、子供たちにとっては牢屋から出られるならばどこでもいい、というのが本音だった。彼らは文句一つ言う事なく、次々と用意された馬車に乗り込んでいった。クリフとクレオもその馬車に乗るように指示される。領主に逆らうわけにもいかない。

「案ずる事はない。お前たちの身の安全は保障されている。俺が明日にでも迎えに行くとしよう」

仕方なくクリフとクレオは頷き、しかしまだ名残惜しそうな顔で馬車に乗り込んだ。馬車は暗闇に吸い込まれるように消えていった。数台の馬車が同様に、町の北へと向かう。通りに出てきていた人々も、騒ぎが収まった様子を見て取り、それぞれの建物へ戻っていった。再び安らかな眠りを手にする者もいれば、商売を再開する者もいるのだろう。シキが汗ばんだ上着に風を入れていると、背中越しに誰かが声をかけた。

「貴公の名前を伺ってもよろしいかな?」

振り返ってみればイルバの領主、ダルケス=コルトその人である。しかしシキはその顔も名前も知らない。訝(いぶか)しげな表情を隠す事もなく、だがともかくも名乗った。

「シキ=ヴェルドーレだが……」

「イルバ領主ダルケス=コルトだ。よろしく。貴公はどういう経緯でここに?」

「あぁ、領主様でしたか。無礼な態度はお許し願いたい。私は先ほどの子供たちの知り合いです。奴に連れて行かれては困るので、勝手ながら剣を抜きました」

「そうだったか。知り合いという事であれば、明日にでも屋敷の方へ来るといい。湯浴みをさせ、服を着替えさせておこう」

「ありがとうございます」

「時に、君は素晴らしい剣の使い手だな」

「いえ、それほどの事は」

「ははは、謙遜も上手だ。ゴダルの傭兵を相手に一歩も引けを取らなかったではないか。どこでそんな剣術を習ったのか、聞いてもいいかな?」

「それは……」

シキは言葉に詰まった。レノア王国騎士団で、などと言えるはずもない。彼は「今」の騎士団とは何の関わりもないのである。ダルケスは何かを察したのか、手を振って言った。

「ああ、言いたくないならいい。……では明日、屋敷で待っているよ」

「昼過ぎには伺いましょう」

軽く頭を下げたシキに、ダルケスは非常に紳士的な礼を持って返し、立ち去っていった。

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