Legend of The Last Dragon −第二章(13)−

「さて、全員が揃ったところで話を始めよう。まずは聞かせてもらいたい。君たちはどういった知り合いなのかね。あまり接点はなさそうに思うのだが?」

「我々は、彼らに助けられた事があるんです」

シキが言うと、ダルケスは余計に興味を抱いたらしく、身を乗り出して説明を求めた。シキは躊躇(ためら)った。しかしイルバの領主が信用に値する人物だという事は既に疑いがなかったし、何しろクリフとクレオの恩人でもある。何も言わずに引き渡してもらおうというのは虫が良すぎる、と考え直す。とは言え、どこまで話せばいいものだろうか。

「実はその……到底信じられる事ではないでしょうが……」

シキは結局、過去から来た事を含めて説明し始めた。もちろん、今までの事情全てを話したわけではなかったが。

「随分と突拍子もない話だが……いや、信じよう。君の言葉には説得力がある」

と、ダルケスはシキの目を覗き込むように言い、それから自分を納得させるかのように頷く。シキは軽く頭を下げて謝意を表すと、話を続けた。

「我々は、当然ですが過去の世界に戻りたいのです。ここは、私たちが住むべき世界ではない。それにジルク殿が――我々をこの時代へ転移させた魔術師ですが――どうなったのか心配なのです。世界の破滅を予言されたわけですが、それが実際にどういう事なのか、今の我々には分かりませぬ。そのためにも……」

「優秀な魔術師を探したい、というわけか」

「はい。時を越えるとなると、魔法の力でも借りぬ事にはどうにも……それで絶対に出来るという保障があるわけではありませんが、当面はそれ以外に行く当てがあるわけでもないのです」

「世界が破滅するという占い、気になるところではあるな。一体、平和そのもののこの世界に、何が起ころうと言うのか」

「私にも、まったく分かりません。まだ、何も起こっては……」

そこまで言ってからシキはふと言葉を止めた。

「レノアの不穏な空気、あれが何かの前兆だと言うのだろうか……」

視線を中空に浮かべたまま、シキがまるで独り言のように呟く。ダルケスはここのところレノアで起こっている異変に思い当たって、なるほどと膝を打った。

レノアへの出入りが禁止されている事は、徐々に大陸中に広まっていきつつあった。誰が、何の目的でレノアを封鎖しているのか、それは誰にも分からなかったが、その事実は噂の形で各地へと伝わっていくだろう。今のところ世界に影響を及ぼしそうな事ではないが、それが破滅への序曲なのだとしたら……ダルケスはそこまで考えて、ある事に気づいた。

「シキ殿。占いに出たのは、世界を救うために双子が必要だと、そういう事だったな。では、双子を連れて元の世界へ戻らなければいけないのではないのか?」

「そうですよ!」

クレオが思わず、と言った調子で口を挟む。シキとダルケスの視線が双子の妹に投げかけられた。ずっと黙って大人の話を聞いていたクレオは、ようやく自分の番が来たとばかりに話し始める。

「きっとそうです。私たちにだって、出来る事があるはずです。あの時、レノアで『帰れ』って言われた時、すごく悲しかった。一緒に行きたかったんです。だけど……」

「確かにあの時の俺ら、いえ僕らは軽率でした。僕らはただ、その、旅に出てみたかっただけなんです。でも実際にサナミィへ向かって歩きながら、一緒に行けない事が悔しくなってきて……。役に立たないって思われた事が悲しかったんです」

クリフがクレオの言葉に同調し、それから二人は交互に、まるで堰(せき)を切ったように話し出した。

「それで引き返したんです。やっぱり連れて行ってもらおうって。そしたら、途中の宿屋で食事をしていかないかって言われて……」

「ただでいいからって言うんで食べたんですけど、気がついた時には変なところにいて……」

「違う違う、何を考えたかって話だったわ」

「あ、そうだ。あの、それでやっぱり思ったんですけど、俺、じゃなかった、僕らもきっと役に立つと思うんです」

「実は別れてから、何度もあの夢を見るんです。世界が破滅する夢を」

「僕も見るんです。レノアまで行く間は一回も見なかったのに」

「だからきっと私たちには使命があるんだって思ったんです。何が出来るかは分からないけど、きっと何か、世界を救う手助けが出来るんだろうって。そりゃ……また足手まといになってしまうかもしれないけど……」

「親父が言ってました。狩り人は村を出る時、二度と帰ってこられない覚悟をして行けって。もう二度と両親に会えなくても……それでも、僕らには出来る事が、やらなければならない事があると思うんです」

「一緒に連れて行って下さい、お願いします」

二人は、まくし立てるように一気に言い、最後の言葉はまるで練習したかのように同時に言った。シキは最後まで黙って聞き、それから深いため息をついた。双子はそれを、息を呑んで見守る。

「簡単に頷ける事ではないんだ。何が起こるか分からな……」

「君には責任があるのではないかな」

首を横に振るシキの言葉を、ダルケスが静かに遮る。

「……どういう意味ですか?」

「二人きりでは、安全でなかった。恐らく、彼らだけではレノアにも辿り着けなかっただろう。クリフたちが危険な目に遭ったのは、君がレノアで彼らを二人きりにしたからではなかったか?」

「それは……そうかもしれません。しかし」

「転移した先がこの時代だったというのは、君たちが双子に会わねばならん運命だったからだろう。運命の歯車を廻しているのはクタールだ。君がこの町で双子と再会したのも、彼の仕業だろう。ならば、ここで別れてもまた再会する……私はそう思うがな」

長椅子から立ち上がり、窓に向かっていたダルケスは、振り返ってシキを正面から見据える。クリフとクレオは互いの顔を見、ダルケスを見、シキを見た。

「最初、私たちが旅に出たいと言ったのは……サナミィが嫌だったからです。ただ、村から出たかっただけでした。シキ様は私たちが同じ顔なのを見ても驚かなかったし……」

クレオはほおを赤らめている。クリフはそんな妹に目をやりながら言葉を継いだ。

「僕らはただ、村を出られる事が嬉しかっただけなんです。でも、今は違います。出来る事があると、思いたいんです。世界の破滅なんて、なんだか難しくってよく分からないけど、僕らに出来る事が……僕らにしか出来ない事があると思います」

「シキ、彼らは君と一緒にいたいのだよ。危険な目に遭わせたくないのなら、君が守ってやればいい」

「……。……分かりました」

クリフとクレオの顔に驚きと、そして歓喜の色がありありと浮かぶ。エイルは自分が口を出す機会がないのでふくれっ面だ。それを見て取ったシキが尋ねる。

「殿下、よろしいですか?」

聞きはしたが、元よりエイルが「嫌だ」などと言うはずがない。そう思っていたシキの気持ちはあっさりと裏切られてしまった。

「足手まといは要らないぞ」

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