Legend of The Last Dragon −第一章(3)−

暖かい部屋では暖炉が赤々と燃えている。長老はシキの正面、ゆったりとした椅子に腰をかけ、こわばった表情を見せていた。

「すると、間違いなく反乱だと……」

「ああ、そうだ。以前から良くない噂はあったものの、まさか本当に反乱が起きるとは思ってもみなかったのだ。迂闊(うかつ)にもほどがある……」

「シキ様のせいではありませんよ。とは言え、心中お察し致します。……サナミィは田舎の村、まさかレノア城でそのような事が起きておりますとは、思いもしませなんだ。では、シキ様が連れておられたあの少年はやはり……」

「……長老よ。俺は、お前を信用に値する人物だと思っている。しかし確認しておくが、お前は忠実なるレノアの民だな」

「もちろんでございます」

「では、レノア王家に忠義を誓えよ。……俺がお連れしているあの方は、レノア国の王子、エイル殿下だ」

「おお! 紋章から王家の方だとは思っていましたが……」

「エイクス王と王妃、そして第一王子のシエル殿下がお亡くなりになった今、エイル王子だけが正当な王位継承者。王子が生きている事が王都の反乱軍に知られたらと思うと……ああ……」

シキの右手が額を押さえている。反乱が起きた城から無事に転移できたはいいが、辿り着いたのはレノアの片田舎。城は恐らく反乱軍に乗っ取られ、取り返そうにも王子と自分一人ではどうにもならぬ。とりあえず信用のおける人物に出会う事は出来たようだが、未来は闇に覆い隠されてると言っていい。シキは思考をまとめようと、精一杯努力していた。そのシキに向かって長老が問いかける。

「シキ様、今なんと仰られました? エイクス王……?」

「何か疑問か? たった今忠臣だと言ったその口で、自国の王の名を尋ねるとは……」

呆れたような顔で長老を見ると、老人はなんとも妙な顔をしている。不思議に思ったシキの眉根が寄った。

「いえその……エイクス王というのは……」

長老が再び質問しかけたその時、奥の部屋へ続く扉が開いて一人の少年が姿を現した。まっすぐな姿勢。溢れる気品が彼の育ちの良さを物語っていた。少年がシキに目をとめて歩き出すより早く、シキが少年の元へ駆け寄ってひざまずく。心配そうな瞳で主君を見上げる姿は、忠臣そのものといった様子である。

「エイル様、大丈夫ですか! お身体の具合は……」

「うん。平気だ。……それより、ここは?」

「ここはレノアの領地内、マグレア地方のサナミィという村でございます。長老に事情をお話し致しまして……」

「ああ、そうか」

最後まで聞かずに、エイルは椅子に腰掛けた。長老が席を立って、少年の前で腰を折る。

「初めてお目にかかります。サナミィのギフルダーラと申します」

少年はそれに一瞥をくれたが、ふっと視線をそらすと、やおらシキに向かって口を開いた。

「シキ、喉が渇いた。何かないか」

長老の挨拶に目もくれないといったその態度に、シキは心の中でそっとため息をつく。そして静かに、しかしきっぱりとたしなめた。

「王子。まずはギフルダーラ殿にご挨拶を。我々を救ってくれた村の長老です」

「ああ……ご苦労だった。礼を言うぞ」

ひざまずいたままの長老に軽く声をかけただけで、エイルは再びシキに飲み物をねだり始める。

「すぐに持ってこさせましょう」

長老は気にする様子もなく立ち上がり、小間使いを呼んでいくつか申し付けた。すぐに飲み物と軽食が運んでこられ、王子様は満足した様子でそれらに手をつけた。皿の上のものを全て片付け終わると、ちょっと不満げな顔で呟く。

「王宮の食事と随分違うんだな……まあ仕方ないか」

「殿下。ジルク殿は、詳しい事は王子に伺ってくれと言っておりました。これから先の事も相談しなくてはなりません、お話し下さいますか」

「……う、うん……」

そういって重たそうに開いたエイルの口から、王宮の老司祭から聞いた話がぽつぽつと零れ落ちる。反乱の起きた朝、ジルク老がレノアの行く末を占った事……。絶滅したはずの竜によって世界が破滅させられるという結果が出た事……。それを防ぐためには『同じ顔の子供が二人』必要だと言う事……。話し終わった時には、部屋には不自然なほどに重い沈黙が満ちていた。長老が緊張した顔で告げる。

「……同じ顔の子供なら、サナミィにおります」

「え?」

「本当か、長老!」

エイルとシキが同時に反応する。長老はそれに答えて頷いて、立ちあがった。

「ええ、すぐにでも呼びましょう」

「いや、もう夜も遅い。王子もお疲れであろうから明日にでも……」

気づけば、すっかり夜も更けている。シキは少年王子の身体を気遣ってそう言うと、一晩の宿を長老に願い出た。長老はそれを快く受け入れ、明日の朝にでも使いの者をやりましょうと約束した。

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