Legend of The Last Dragon −第一章(5)−

「昨日お話を伺った時から思っていたのです。大変失礼とは思いますが、どうか真剣に答えていただきたい」

「なんだ?」

「私はレノアの忠実な民です。田舎者とはいえ、国王の名を知らないはずもありません。昨夜、シキ様はエイクス王が亡くなられ、第二王子のエイル殿下をお連れだと仰いましたが……私の知っているレノア王の名は、グリッド王です。グリッド様は名だたる賢王としてその名を馳せています。そして、王には……世継ぎの王子がいらっしゃらないはずです」

「何を馬鹿な事を! グリッド王など、聞いたこともない。俺を謀(たばか)ろうと言うのか」

「め、滅相もない。そのような……私に何の得もありません。シキ様、どうかお教え下さい。エイクス王はレノアの何代めの王であらせられるのかを」

「下らぬことを。エイクス=ヨハネ=シュレイス=レノア様は第十三代レノア王だ」

「……グリッド王は、第三十七代レノア王」

クリフが呟き、その場の空気が凍りつく。その沈黙を破り、長老が静かに続けた。

「そう、レノアの民であれば子供でも知っています。……信じられないとは思いますが、やはり、反乱は起きていないのでしょう。そして、シキ様たちは……」

「いや! 反乱は確かに起きた。俺にはあの時の驚愕と、戦った感覚がまだ残っているのだ……」

「レノアに行けばいいじゃないか」

突然、木の扉から声が聞こえてきた。そしてその可愛らしい声の持ち主は、微笑を浮かべて扉の向こうから現れた。言わずもがな、エイル王子である。無邪気な笑顔のまま、少年は繰り返した。

「レノアに行けばいい。行ってみれば分かるだろう、反乱が起きているかどうか」

「元より、私は行くつもりでおりました。しかし殿下をお連れする訳には参りません」

シキが決然として答える。彼は反乱が起きたと信じている。確かに反乱が起きたのであれば、今や、残された正統な血筋は唯一エイル王子のみ。反乱軍が城を乗っ取っているとすれば、この人ほど命を狙われる存在はない。そんな危険な場所に大切なご主君を連れて行けようか。が、もしや……別の考えが頭をよぎる。もし、万が一にも長老の言う事が正しいのだとしたら……。

「では、こうなさいませ。エイル殿下は一時この村でお預かり致します。レノア城下までは片道十日と少し、シキ様が様子を見て帰ってこられては……?」

長老の提案である。しかしエイルは憮然とした表情で唇を尖らせる。

「嫌だ。シキが行くなら私も行く」

「殿下、それはなりません。輿もなく、従者もおらず、きちんとした準備も出来ぬというのに、王子が旅をするなど……」

「私は行く」

「いや、ですから殿下……」

「こんなところに残るなんて、嫌だ!」

クレオは、「こんなところとは何よ」と心の中で呟いた。王子様って言うからどんなに格好いいのかと思ったら、単なるわがままな子供じゃないの、偉そうに……。クリフはそんな妹を横目で見ている。クレオが何を考えているか、双子の兄には分かりすぎるほど分かるのだった。そっと苦笑をもらす。シキは何とか説得しようとなだめすかしていたが、結局はシキが折れることになった。エイルは得意満面で頷き、シキに向かって指を立てると言い聞かせた。

「もう私を置いて行くなどと言うなよ」

「はい、殿下。……では、くれぐれも言っておきますが、決してご身分を明かされないよう」

「分かった分かった」

目を閉じて軽く手を振って見せる。シキは諦めたように天を振り仰ぐと、ため息をついた。一転して真剣な顔つきで、双子を振り返る。

「お前たちもついてきてくれないか」

「えっ」

なんとなく予想していたとは言え、その言葉を実際に聞くと衝撃が走る。二人の子供たちは、お互いの顔を探るように見つめあった。しばらくの間、気まずい沈黙が流れたが、クリフは決心して口を開いた。

「僕、行きます」

「そうか。聞けば一度も村を出た事がないそうだな。……危険な事もあるかも知れないが」

「僕らが、なんの役に立つのかは分かりません。でも、世界の破滅を救えるかもしれないんでしょう? ……それに、お城に行って帰ってくるだけかもしれないし」

「クリフが行くなら私も行きます」

クレオもきっぱりと言った。その唇がちょっと震えているのを目ざとく見つけたエイルが、意地悪くからかい出す。

「怖がっているのではないか、お前」

「何言ってんのよ、怖くなんかないわよ」

「何だと、無礼な口を利くな、田舎娘! 私を誰だと思ってるんだ」

「田舎娘って何よ! あんたこそ今は王子じゃないかもしれないのに……!」

そこまで言って、はっと口を抑える。エイルの大きな目がより見開き、口元とこぶしがわなないている。

「……無礼者め!」

勢いよくあがったエイルの手が、大きな手につかまれて止められる。

「離せ!」

「今のはエイル様にも非がおありですよ。……しかしクレオも、言い過ぎだな。王族に対する口の利き方ではない」

「ごめんなさい……そんなつもりじゃなかったんだけど」

エイルは何か言いかけたが、そのままシキの手を振り払うと奥の部屋に駆け込む。残されたのは気まずい沈黙だけだった。

Copyright©, 1995-2008, Terra Saga, All Rights Reserved.