Legend of The Last Dragon −第一章(1)−

明るい太陽の光が降り注いでいる。太陽神ハーディスの恵みが満ちている証拠だ。この村はさほど広くもない。森に囲まれた、閉鎖的な集落である。そのうちの一軒、狩り人チェスターの家の煙突から、朝食の時間を示す暖かな煙が揺らぎのぼっていた。

部屋の窓からハーディスの恩恵が差し込んでいる。部屋の中央には手作りの木机が置かれていた。素朴なその机は何枚かの板を合わせた作りになっていて、表面は丁寧にやすりがかけられている。机のそばには揃いの椅子が四つ。これも素朴な作りだが、背もたれの部分には可愛らしい模様が彫りこんであった。台所と兼用の、それほど広くない部屋には、朝食の匂いが立ち込めている。その準備に忙しく立ち働いているのは、ほっそりとした女。その横で、身体を丸めて窯に火をくべているのは、長身の男である。顔が火に照らされて真っ赤に火照っている。亜麻色の豊かな髪を束ねた女が、男を振り返った。

「チェスター、ちょっと見ててくれる? 子供たちを起こしてくるわ」

「ああ」

チェスターと呼ばれた家の主人は無愛想に答える。妻のルクレリアは、前掛けで手をふきながら部屋の奥の階段を上っていった。二階には寝室が二つ。扉も二つ並んでいる。その片方を開けて息を吸いこむと、彼女は大きな声で呼びかけた。

「クリフ! クレオ! もうすっかり明るくなったわよ。さっさと起きなさいな」

その声と同時に、二つの寝台から男の子と女の子が飛び起きた。

「う、うわ!」

「きゃっ」

驚くような声をあげてはね起きた途端、顔を見合わせて奇妙な顔をしている。母親は首をかしげたが、軽く肩をすくめると、食事の用意が出来ている事を告げて部屋から出ていった。残された二人は、相変わらずお互いの顔を見たまま押し黙っている。

二人の子供が向かい合わせになると、まるで相手が鏡に映っているかのようだった。それほどまでに彼らは似ているのである。はしばみ色の瞳を携えた愛らしい顔立ちで、同じ服を着ていれば、父親でさえ見間違える事もあるくらいだった。いくら似ている兄弟とは言え、これほどまでに似ている兄弟というのは、そうはいない。二人は母親ルクレリアが、同じ日同じ時に生んだのである。運命の神クタールの気まぐれが二人を作ったとしか思えない。何故なら、この世界に双子というものは存在しないのだから。しかし紛れもなく、彼らは双生児であった。

「……」

「……」

「……見た?」

「……見た」

「また、いつもの……?」

見つめ合った姿勢のまま、男の子の方が暗い顔で問いかける。女の子はそれを受けて頷いている。

「うん。あれだった」

「やだなあ、なんでいつも見るんだろ」

「もう何日続けて見たっけ?」

「分かんないよ……」

彼らはもぞもぞと木の寝台を降り、ため息混じりで着替えを済ませた。、階下に下りていくと、既に机についている両親と挨拶を交わし、席につく。黙ったままで食事を続ける子供たちに、今度は両親が顔を見合わせた。

「どうしたんだ? ここんとこ、ずっと元気がないな」

「そうよ、いっつも黙ったままで。何かあったの?」

心配そうな両親の顔。子供たちはしかし、しばらくためらった。どう話していいか分からなかったからである。それと同時に、自分たちの話を信じてもらえるかどうか、迷ったのでもある。それでも、両親に重ねて問われ、二人はようよう話し出した。

「ここんとこ、毎日同じ夢を見てるの。私も、クリフもよ」

「なんて言うか……すごく嫌な夢なんだ。空も大地も割れて、人間がみんな争ってさ……。俺、夢なんか滅多に見ないのに、ここんとこ毎日のように見ちゃうんだ。クレオは、不吉な予感だとか言うし……」

「だって、世界の終りって感じなんだもん」

クレオはきっぱりと言いきった。チェスターは思わず笑い、「それで?」と促した。まるでお伽話を聞いてでもいるようだ。クリフはその様子に少し腹を立て、ほおを膨らませる。

「笑い事じゃないんだって。その夢を見ると、一日ぐったりしちゃうんだよ」

「そうよ、本当なんだから。それに……ね?」

隣の席の兄に同意を求めるように尋ねる。それから肘でつついて、「クリフが言ってよ」と囁いた。クリフは「えぇ? クレオが言えよ」と身をよじる。

「あのね……、その夢に、ね……竜が出てくるの。竜の吐く炎が世界中を燃やすの……ね、母さんならわかってくれるでしょ? 嘘じゃないの!」

クレオは急に早口になって母親に向き直った。その瞳には馬鹿にしないで聞いて欲しい、という意思が確かに感じられる。はなから信じていない様子のチェスターに比べて、母のルクレリアは神妙な顔だ。チェスターは、その表情を見て居住まいを正した。

――子供の言う事を頭から信じないというのは良くないな……。

心の中でそっと呟く。

「言わなかったけど……」

双子の母親はさじを置き、妙に小さな声で話し始めた。その顔色は少し青ざめたように見える。

「私もこないだから夢を見るの。二人が言ったみたいな夢。竜も……出てくるわ。……チェスター。私が昔、司祭をしていたのは知っているでしょ?」

問いかけられたチェスターは、もちろん、というように頷きながら、ルクレリアの肩に手を乗せる。

「ここのところ、不安だって言ってたのはその事だったのか?」

「……ええ。私の不安がみんなに移ってはいけないと思って黙っていたのだけど……まさかあなたたちも夢を見てたとはね」

「きっと、母さんの力が強いからだよ」

「うん、きっとそうよ。ね、本当だったでしょ」

クレオが、父親に対して正当性を主張する。チェスターは軽く頷いてそれを認めると、ルクレリアに向き直った。

「気づいてやれなくてすまなかったな」

「いいのよ。ありがとう、チェスター。……たいした事じゃないと思ってたけど、これは一種の予見だわ」

普段聞きなれない単語に、子供たちが首をかしげる。

「予見って……なんて言ったらいいのかしら、占いみたいなものよ。ただ、占いは当たらなかったりもするけど、予見にそういう事はないの」

「へー、じゃ絶対当たるって事?」

「というより、先の事を見るって感じかしら。生まれながら持った才能のようなもので、ほとんどの人には出来ないわ。それに余程の訓練を積まないと、出来るかどうかすら分からないの」

「司祭だった母さんには出来るんだね? それであの夢が予見だっていうの?」

「じゃあ私たちが見た夢は、必ず起こるって事……?」

「いや、そうとは限らないさ」

チェスターはすぐにそれを否定したが、ルクレリアの司祭としての資質を一番よく知っているのは彼自身である。不安を隠しきれるはずもなかった。

いつの間にか、机の上のスープはすっかり冷めてしまっている。なんとはなしに会話が途切れ、四人の家族は静かに食事を再開した。木枠にはめ込まれた窓からは、朝の清々しい光が差しこんでいる。いつもと変わらぬ、暖かく平和な春の朝。しかしそれにも関わらず、部屋の空気はどこか冷たく、よどんでいるような気さえしていた。

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