LL index≫第一章(一気読み) (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12)
チェスターの家では、ルクレリアが本格的に予見をしようとしていた。夢で見た事が本当に起きる事なのか、司祭として調べようという訳である。しかしいざ始めようというところへ、長老からの使いがやってきたのだった。
「そういう訳ですので、朝早くからすみませんが、お子さんを長老の家によこして下さい」
「分かりました。用意をしたらすぐに伺わせます」
使者が帰るとルクレリアは子供たちを呼び、身支度を整えさせた。チェスターとルクレリアは、王侯貴族に会う事など滅多にない、と緊張していたが、子供たちはどちらかというとわくわくしている様子だ。
「遊びに行くんじゃないのよ。きちんとご挨拶しなきゃいけないし……」
「分かってるよ、母さん」
「大丈夫よ」
明るく言う二人を見ていると、どうも不安が拭い切れないルクレリアである。「本当に大丈夫かしら」と言いながら二人に上着と帽子を手渡した。
村は、運びこまれた二人の噂でもちきりだった。広場を横切って長老の家に向かう双子に、人々の視線が集まる。クリフとクレオはなんだかいい気分になった。自分たちが選ばれた、特別な存在であるような気がしたのだ。
クリフとクレオが生まれた時は、村中に驚嘆の声が上がったものだ。二人の子供が、一人の母から同時に生まれる事など、今まで絶対にあり得なかったからである。縁起が悪いからどちらかは殺した方がいいという意見すらあった。しかしルクレリアとチェスターの心は決まっていて、人々の声にも意思を変える事はなかった。これが運命なら、この子たちには何かしらの使命があるのだろう。それがルクレリアの言葉だった。
二人が育っていくと、騒ぎは更に広がっていく。子供たちの顔があまりにも似ていたからだ。似ているというより、まったく同じと言うべきだった。顔や瞳の色形、髪質、手足の形に至るまで……二人は写し取ったようにそっくりだった。村人たちは、双子は自分たちと違う異端の存在であるとして、ある者は恐れ、またある者は好奇心を持って彼らと接した。
サナミィでは、子供たちに教育を受けさせるほどの余裕のある者は少なく、子供たちは友達を村の中で作るほかはない。しかしクリフとクレオには、いまだに友達と呼べるような者がいなかった。村の子供たちとはどうも馴染めないのである。彼らはクリフたちの事をからかったり、気持ち悪がったりするので、クリフもクレオも彼らと行動を共にする事もなかった。また子供たちだけでなく、その親も、チェスター一家とはあまり付き合おうとしなかったのである。
しかし、二人が自分たちを孤独だと思っている訳ではなかった。いつでも相手が隣にいるからである。彼らは生まれた時からずっと一緒で、お互いがお互いを補い合って育ってきたのである。クリフにとってはクレオが、クレオにとってはクリフが誰より大切な兄弟であり、友達であり、自分の半身であった。彼らは、自分たちの事を二人で一組だと思っていたし、お互いがいればそれで満足だった。そしてこの絆は、彼らが成長するごとに深まっていったのである。
クリフたちが向かった長老の家は、村で一番立派な屋敷である。二階建てで、真っ白な壁に赤茶の屋根がよく映える。庭も広く、全体的に丁寧な手入れがされていた。クリフが大きな一枚板の扉を叩くと、先ほど彼らを呼びに来た少年が中へと招き入れ、長老が待っている客間に双子を案内した。暖かい部屋に入ると、赤々と燃える暖炉がすぐに目につく。暖炉の前にはゆったりとした長椅子があり、長老と青年が腰掛けていた。
「朝も早くからすまないな。ささ、そこへかけてくれ」
二人は長老が促すままに、向かいの長椅子に身を沈めた。
「こちらの方をご紹介しよう。シキ様だ」
その言葉に、長老の横の青年が軽く頷く。
「レノア王国騎士団、緑旗隊副隊長のシキ=ヴェルドーレという。以後よろしく頼む」
「クリフです」
「クレオです」
二人はさすがに緊張していたが、それを押し隠して名乗った。青年はクリフとクレオを順に見つめたが、特に顔色を変える事もなく、それと対称に、双子の顔に少々驚いたような表情が浮かんだ。初めて彼らに会った人に驚かれない、という事が今までなかったからだ。
小間使いが部屋に入ってきて、暖かいお茶の控えめな香りが部屋に広がった。
「シキ様には色々とご事情がおありでな。お話を聞いたのだが、どうやらとんでもない事になっておるようじゃ。……実は、レノアのお城で反乱が起きたらしい」
「残念ながら、本当の事だ」
シキが今までの事情を説明する。世界を救うために同じ顔の二人の子供を捜していた事、老司祭が自分と王子を逃がすため、双子のところへ送り込んでくれた事。その話を聞いて、クリフとクレオが納得したように頷いた。
「それで、僕らが呼ばれたんですね」
「同じ顔の子供たちなんて、私たちくらいのものですもんね」
自分たちが見た、世界が破滅するという夢は嘘じゃなかったのか……暗い表情のクリフとは逆に、クレオはむしろ得意気だ。目の前の青年騎士は真剣な眼差しで彼らを見つめている。
「正直に言おう。お前たちがいたとして、それで何がどうなるのか、俺にも分からないのだ。ジルク殿に会わねばならないが、城が、レノアがどうなっているのかすら分からない。ともかく、レノア城下の様子を見に戻ってみようと思っているが……」
「シキ様」
ずっと黙っていた長老が思い出したように口を挟んだ。
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