Legend of The Last Dragon −第一章(6)−

「先ほどの一団は……王国騎士団緑旗隊だった」

シキが冷静に話し始めた。自分の感情を抑え、淡々と話している。

「どうやら国王……グリッド陛下には姫が一人いて、他国へ親善大使としてお出かけだったらしい。ご訪問の期間が終わってご帰国になったのだとか。緑旗隊はその護衛。隊長はサニエール、副隊長……が、フォードという名で」

「緑旗隊の副隊長はシキ=ヴェルドーレという名だ」

エイルが憤慨して胸を反らし、きっぱりとした口調で言ってのけた。双子はお互いに困ったような顔を見合わせている。シキはほんの少し、淋しげに微笑んだ。

「エイル様。どうやらここは我々が知っているレノアとは違います。人々に尋ね聞いたところ、王の名はグリッド=リヨール=シュレイス=レノア、第三十七代レノア王でございます。残念ながら今が、レノア暦七八四年だというのは、誰に聞いても同じ答えで」

「今年は四三八年だってば」

「エイル様は、シキが嘘をついていると、そうお思いですか」

「……」

広がる沈黙がその場の気まずい雰囲気を演出し、クリフとクレオはその沈黙に耐えられなくなってしまった。比較的明るい雰囲気を出そうと務めながら、交互に言い出す。

「ってことはやっぱり、時間がずれていたんですね」

「すごいね、三百年前の人に会えるなんて」

「そうだよね、すごいや。でもなんでだったんだろう」

「その、ジルクという司祭が間違えちゃったのかな」

「そうかも知れぬ。あの時、ジルク殿は焦っておられた」

「いや、違う」

シキの言葉に、エイルが弾かれたように顔を上げた。そして、転移した時の事を、一つずつゆっくりと思い出すように話し出す。

「……あの時、ジルクは確かこう言った。『双子の場所は突きとめた。転移の術法も準備した……だがその場所がどこだか見えなくて』……と。クリフとクレオがいる場所は分かっているが、それがどこだか、そしていつの時代なのか、ジルクは知らなかったんだ」

「あ、そうか……じゃあジルク様にしても、予想外だったって事なのかな」

「恐らくそういう事だな」

この言葉に、三人の視線がシキに集まる。

「ジルク殿は、双子が存在するのが三百年先の未来だとは知らなかったのだ。知らずに俺らを送ってしまった。……そう、確かに、今このレノアでは反乱などは起きていないのだ。……とすると、俺はエイル様を連れて、なんとか元の世界へ戻らねばならない」

「どうやって戻るつもりなんですか? ……いや、その……」

クリフが尋ねる。その答えがない事は、聞いた本人もよく分かっている上での質問だった。この先どうなるのか、分からない。その不安がただ口を突いて出ただけのようなもので、クリフもどうすればいいのか困ったような顔でうつむいてしまう。シキは少し考え、その考えをまとめるように話し出した。

「時を越えるような方法を俺は知らないし、そこらの誰でもが知っているような事ではないはずだ。まず、情報を得なくては……。しかしレノアの城下に入るには通行証がいる。それを手にいれるのは困難だろうな。先ほど見た様子ではここでずっと待たされ続けるだけで、いつまで経っても中には入れなそうだ。さて、どうするか……」

クレオがどことなく得意そうな顔で右手を軽くあげ、何か考えついた事を主張している。その頬が興奮している証拠に紅く染まっている。硬い表情をしていたシキはそれを見て、ふっと表情を崩した。

「なんだ、クレオ?」

「あの、思ったのだけど、時を越えるにはすごい力が要るわ。大魔法使いでもなきゃ出来ないのでしょう? きっと」

「それくらい誰でも分かる」

「うるっさいな、エイルは黙っててよ」

「エ、エイルだと! 呼び捨てにするなど、私を誰だと……」

「もうっ、いいから黙ってて下さいませ、エイル様! ……でね、大陸一の魔法使いならきっと時を越える魔法も知ってると思うの」

「なるほどな、理屈は合ってるが」

「ね? でしょう?」

「しかしその、大陸一の魔法使いとやらがどこに住んでいるのか知っているのか?」

「えっ……うーん、それは知らないけど……」

「なら言うな」

「……もう! 文句あるならこっち来て言いなさいよっ!」

脇の方で別の方角を見たままぶつぶつ文句を言っている少年王子に向かって、クレオが怒る。しかしエイルはクレオに一瞥をくれただけで、すぐに目を逸らした。その態度にクレオの顔が更に紅くなり、頬が脹らむ。

「まあ落ちつけ、クレオ。そうか、優秀な魔術師か」

「そうです、魔法使いを探しながら旅をするの! きっと素敵です!」

「おいおいお前たちも来る気なのか」

「行きますよ、もちろん!」

クリフまでが興奮して話に加わってきた。

「レノアに入れないのは残念だけど、大陸中を旅して魔法使いを探すんです! 色んな人たちに情報を聞いたり、町から町へ旅して……」

「ちょっと待て」

双子は、これから始まるであろう魅惑的な旅を期待して目を輝かせている。シキは苦笑し、それからきっぱりと首を横に振って見せた。

「お前たちを連れていく気はないぞ。……いや、実を言えばレノアに着くまで、俺は反乱が起きているのだと思っていた。それならなんとかジルク殿を助け出し、世界を竜から救うための双子を連れてきた事を報告せねばと思っていた。だからこそお前たちにもついて来てもらったが、現状では『世界の破滅』より元の時代へ戻る方が先だ。お前たちはもういいからサナミィに帰りなさい」

「でも……」

「何より元の世界に戻り、それからジルク殿に再会して、お前たちの事を報告せねば。時を超えるというのがどういう事なのかも、まだ分からぬしな。それに、旅をするという事は、楽しいばかりではない。むしろ辛い事や苦しい事の方が多い。お前たちにはまだ分からないだろうが、両親がいて、住むところがあるというのが、どんなに幸せな事か。……とにかく、お前たちを連れていく訳にはいかない」

そう言ったシキの口調は厳しく、クリフもクレオも何故それほど拒否されるのかが分からなかった。なおも言葉を継ごうとするクレオを、シキが指を立てて黙らせる。

「今のお前たちでは、正直に言って足手まといになるだけだ。それに、この先どうなるのかも分からない。我々と一緒にいては、危険な目に遭う事もあるだろう」

「……」

「お前たちに何かあってみろ。サナミィのご両親に、俺はなんと言えばいい?」

双子には、それ以上言うべき言葉が見当たらなかった。同じ顔を見合わせて、お互いに何かを確認し合うと、クリフが小さく頷いた。

「……分かりました」

「せめてサナミィまで送っていこうか」

少々罪悪感に胸を痛めたシキの申し出に、クリフとクレオは再び顔を見合わせたが、今度も、何も言わずに意思が通じているようだった。

「いえ、大丈夫です」

「僕ら二人でサナミィまで帰れます。道も分かるし」

「そう危険な事もないと思いますから」

「そうか。まあ、来た道を思えば大丈夫だろうな。では、気をつけて帰れよ。……エイル様、我々も参りましょうか」

「……うん」

シキは振り返る事なく歩き出す。双子はすぐに動けなかった。自分たちが想像していた展開とは程遠く、あっという間の事態の進展についていく事が出来ない。シキが立ち止まり、何か言ってはくれないだろうかと、ほんの小さな期待を胸にしばらく立ち尽くしたが、エイルが一度だけ、そっと振り返った以外は何も起こらなかった。

双子がレノアを離れ、とぼとぼと歩き出した時、太陽神ハーディスはまだ頭上高くに輝いていた。二人は言葉もなく、歩いていく。サナミィへ続く道を、彼らは沈んだ気持ちで、一歩ずつ進んでいった。時にレノア暦七八四年、青葉の月の事である。

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