Legend of The Last Dragon −第二章(7)−

「知り合いが、奴隷たちの世話してるんだよ。今回は子供ばっかだし、おいらも手伝わされてんだ」

――まさか、彼らなんだろうか。

シキは両腕を組んだ。レノアで別れた双子は、そのままサナミィへ帰ると言った。イルバはレノアから見れば南。北のサナミィへ帰ったはずのクリフとクレオがイルバにいるわけがない。しかし同じ顔の兄弟など、他にいるとも思えない。シキは今一度、少年に確かめた。

「本当に、同じ顔なのか? よく似ているという事では」

「似てるんじゃないよ。そっくり同じさ! 男の子と女の子で……あ、だから違うんだけど、いやあの、とにかくあとはみんな同じさ。髪や瞳の色も、声までそっくりだったよ」

「……」

「なぁ、おいらもう行っていいかい? 金持って帰んないと親父にどやされるよ」

「また掏(す)るのか?」

「他に稼ぎようがねえもん。さもなきゃ親父に売り飛ばされちまわぁ」

「そうか……」

布袋から貨幣を取り出し、少年に手渡す。少年は大きな目を見開いた。その口から、思わずため息が漏れる。

「ぎ、銀貨、フラーゼ銀貨じゃんか……! も、もらっていいのかよ」

「ただでやるとは言っていない。お前の腕を買ったんだ」

少年はその声も聞こえなかったのか、手の上の銀貨をじっと見つめている。彼にとって、こんな大金は生まれて初めて見るものだ。緊張して手に汗が滲むほどだった。銀貨が一枚あれば一ヶ月分の食費にもなる。少年は自分の鼓動が大きく、早くなるのを感じていた。しかししばらくの後、はっと顔を上げた。

「ちょ、ちょっと待って。おいらの腕を買うってどういう事さ?」

「知り合いが奴隷の世話をしてると言ったな。じゃあ奴隷を入れてる部屋の鍵も持ってるだろう」

「ああ、いつも腰にぶらさげてるよ」

「その中から、さっき言った二人が入ってる部屋の鍵を持って来られないか?」

「えっ……」

少年は一瞬、絶句した。それから、口の中でぶつぶつ言いながら腕を組んで歩き回る。「でもそれは」「うーんと」「いや、やっぱり」などと言いながら、しばらくうろうろとしていたが、ようやく最後にこう言った。

「あいつが毎日飲みに行く店は知ってっから、酔って出てきた時に取るのは出来ると思う。……でもさぁ」

「取ってきたら、銀貨もう一枚」

「やるよ!」

即答してから、しまったぁ……という顔でシキを見上げる。シキは笑って「頼むぞ」と言った。少年は肩をすくめて、苦笑する。帽子をかぶりなおすと、シキの宿を確認してから去っていった。

その部屋は薄暗く、湿っぽい匂いがした。土はぬかるんでいて冷たく、裸足なのがとても辛い。左右の足を交互にさすっていたが、いつまで経っても温まらなかった。小さな椅子が一脚だけ置いてあったが、それには妹を腰掛けさせていたので、兄はもうずっと長い間立ちっぱなしだった。ぬかるんだ土の床に座る気には、到底なれない。部屋の壁は、三面が煉瓦で、残る一面が鋼の格子だ。顔を出す事も出来ない幅で埋め込まれている鋼の棒。そこから覗くと、暗く狭い廊下を隔てた向かいにも同じような部屋があり、小さな子供が壁に寄りかかっているのが見えた。

「ねえ……いつになったらここから出られるのかな」

妹が、これまでに幾度もした質問を繰り返す。兄は、いつもと同じ答えを返すしかなかった。

「そんなの……分かんないよ」

彼らは、それほどひどい取り扱いを受けたわけではなかった。むしろ子供たちは、労働力として扱われる奴隷たちに比べれば、ずっと良い扱いだったと言わなければならない。しかし、今までの生活とは比べるべくもなかった。言うまでもなく、彼らは売られる立場になった事がなかったのだ。

子供たちは恐怖に怯えながら、ただ何かが起こるのを待つばかりだった。四つのはしばみ色の瞳が、他の瞳と同様に揺れている。時間は無駄に経過していき、言い知れない不安が子供たちの上に重くのしかかっていった。

突然、長い廊下の突き当たりにある、重い鉄の扉ががちゃりと音を立てた。不安に駆られた多くの瞳が吸い寄せられる。姿を現したのは背中の曲がった男だったが、扉の向こうが明るいせいで表情はわからない。男は扉を半分ほど開け放したまま、のそのそと廊下を歩いてくる。子供たちの緊張が高まっていく。唾を飲み込んだ音がやけに大きい気がして、恐ろしくなる。心臓の音が、男の足音と相まって響いた。

男は一番奥の牢屋まで来ると、格子越しに手を突っ込んだ。不恰好な手が、袋から取り出した硬そうなパンを握っている。

「ほれ、これでも食え」

牢の中の兄妹はしばらく顔を見合わせ、一人が小さく頷くと、もう一人が進み出てそれを受け取った。おずおずと礼を言って、頭を下げる。

「ど、どうもありがとう……」

「言われる筋合いじゃねぇ。言われた仕事やってんだけだ。夜まで大人しくしとれ」

「あの……」

「あんだ?」

「……俺ら、これからどうなるの?」

「ああ心配かぁ。売られんだよ、金持ちにな。きっと可愛がられるさぁ。ええ服着せられて、ええもん食えるさな。ま、おいらは頼まれたってごめんだがなぁ、ふぇっふぇっふぇっ」

男は気持ちの悪い、掠れた声で笑うと、隣の牢へ行ってしまった。そして同じようにパンを格子に突っ込んでいく。それを何度も繰り返し、やがて全ての牢屋に粗末な食事を届け終えると、男は腰の鍵束をがちゃつかせながら去っていった。外の明かりが差し込んでいた廊下は、男が鉄の扉を閉めると共に、再び薄暗くなる。子供たちの緊張は解けたが、扉の閉まる音にいくつものため息が重なった。一番奥の牢の中では、同じ顔の兄妹が、他の全ての子供たちと同じように悲嘆にくれていた。

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